第3章 専属契約
『貴様が欲しい』
あの夏の日、目標を失っていた私の目の前に、一生忘れられない口説き文句で現れた彼。
あの言葉は愛の告白でも何でもなくて、彼がスカウトする人全てに言っている言葉に違いない。
恋愛経験値ゼロの私を、あんな経験豊富な人が相手にするわけないって、考えたら分かる事なのに.........
でも、一瞬で心を奪われてしまった。
「はぁ..........」
冷凍庫から保冷剤を取り出しハンドタオルに巻いて、目頭に当てた。
「セナお待たせ。アンタついてるわ。今日偶然光秀ちゃんが社長に会いに来てて、時間があるからメイクしてくれるって」
ケイティが興奮気味で玄関を開けて戻ってきた。
「光秀......ちゃん?」
「あら、アンタ知らないの?カリスマメイクアップアーティストの明智光秀。世界的にも有名なのよ。Mitsuhideの名前でコスメも出してるけど、まぁ黒い噂がありすぎて余りメディアには出ないから知らなくても無理ないわね。社長の友人なの、イケメンよ〜」
ケイティの好みの顔なんだろうか。さっきの悲痛な叫びの時とは打って変わって上機嫌になった彼に腕を引かれ、エレベーターに乗った。
エレベーターを降りると、先ずはメイクルームへと連れて行かれた。
「光秀ちゃん連れて来たわ。宜しくね」
ドアを開けて中に入ると、銀髪のサラサラストレートヘアが印象的なイケメンが、メイク道具を並べながら待っていた。
「敬太郎か、久しぶりだな。髭も濃くなって、益々男らしくなったじゃないか」
ニヤリと綺麗な顔が嫌味な笑みを作った。
「相変わらず嫌味な男ね、まぁそんなとこも素敵だけど」
これが二人の挨拶の形なのか、ケイティは目の前のイケメンの嫌味をさらりとかわした。
「セナよ。昨夜眠れなかったらしいから、綺麗に直してあげて」
ケイティが私の背中を押して、光秀さんに紹介をした。
「セナです。今日はよろしくお願いします」
「お前がセナか、光秀だ。眠れなかったとは、想像してたよりも子供なんだな」
ククッと彼は笑い、椅子を引いて私にそこに座るよう促した。