第22章 Etigo
「その事なんだけど、一つセナさんに伝えておきたい事があるんだ」
私のワクワクとは正反対の真面目な顔で佐助君は私を見た。
「うん、何?」
「テレビや雑誌で見たけど、君が、事務所の社長の織田信長と付き合ってるって事はほんと?」
「.......うん、ほんとだよ.....」
「そうか......それはちょっとまずいな」
佐助君は眼鏡に手を当てて考え込んだ。
「どうしたの?」
「いや、言いづらいんだけど....謙信さんと信玄さんはその....信長さんの事を快く思っていない所があって...」
「そうなの?でも、私が織田プロって知ってて依頼してくれたんじゃないの?」
「そこは大丈夫なんだ。彼らもプロフェッショナルだからね。織田プロだからダメと言う事は無いけど、問題は、君が織田信長の彼女って所なんだ」
「社長のごり押しみたいに思われるとかってこと?」
信長は仕事に妥協はしない。彼女だからって絶対そんな事はしないけど。
「いや.....詳しくは話せないけど、信長さんに個人的な恨みがあって、謙信さんの曲風が悲恋ソングに偏り始めた原因を作ったのが信長さんなんだ。だからその彼女がMVに出演するなんて知ったら........」
よほどな事が起きるのか、佐助君はそれ以上を口にしない。
「でも.......隠し通せるかなぁ?私たちの事はほぼ毎週のように雑誌やWebのニュースになってるし」
「それなら心配ない。あの人はそう言ったことには無関心で曲作りばかりしてるし、信玄さんはナンパに夢中だから」
なる程.....何だか納得だ。
「どうすればいいの?」
「撮影期間中、君が信長さんの彼女だって絶対に気づかれないようにしてほしい。信長さんが見に来たりすることもNGでお願いしたい」
「わ、分かった」
初のMV撮影は、何だか前途多難?な予想を呈して来た。