第22章 Etigo
「俺が以前お前を見た時は、この曲のイメージ通りに悲壮感漂う女に見えたが、今のお前はぬるま湯につかり切って呆けた女に見える」
「えっと..........」
明らかに褒められてはいないと分かったけど....
オッドアイの綺麗な目が、探るように私を見る。
「私に......会った事があるんですか?」
初対面なはずだよね......?
「ふた月ほど前か?同じスタジオ内に義元が来てると聞いて、用事があって撮影を見たら、お前もいた」
「あ、あの映画の撮影.....」
見られてたんだ.........
あの時は確かに、人生で1番辛かった日々だから。
でも、少し見ただけで今の私と違うって分かるなんて凄い。
「やけにすっきりとした顔をしているが、何かあったのかと聞いている」
質問に答えろと言えように、謙信さんは私をじっと見つめる。
「あの.......」
あの頃と違って今は大好きな人と両想いになりました。......なんてとても言えるような雰囲気じゃないな。(言ったら怒って帰りそうだ)
「....初めての映画と演技でいっぱいいっぱいだったので、必死だったんだと思います」
これも決して嘘ではない。
「........そうか。まぁ良い。あの時の緊張感で今回も臨め。いいな」
冷たい顔がふっと緩んで笑顔を作った。
(わぁ〜)
やっぱりイケメンって凄い。たった一つの表情で心を掴まれた気がした。(決して浮気心ではない)
「は、はい。よろしくお願いします」
私は深く頭を下げ、顔合わせは終了した。
「セナさん、この後ちょっと時間ある?」
終了後、佐助君が声をかけてくれた。
「佐助君」
ちらりとケイティを見ると、
「いいわよ別に。ただ写真に取られたりはしないでね。社長に言い訳が立たないから」
パチンとウインク。
「うん、分かってる。佐助君、大丈夫だよ」
「じゃあこの近くのカフェで少し話さない?」
「分かった」