第2章 XOXO
「わぁっ!はっ、はいっ」
「似合ってる」
「....................へっ?」
「その服と靴、似合っていると言ったんだ」
少し体を離して、社長が覗き込む様に言った。
「あっ、は、はい、ありがとうございます」
そうか、そうだった。お洋服が私に似合うかを見てくれてたんだった。
もう、目を合わせることもできないくらいドキドキするから、視線を社長の口元までずらすと、さっきの女の人の口紅が薄っすらと拭いきれずに、社長の唇に残っていた。
それを見た途端、冷たい感情が一気に自分の中に流れ込み、冷静さを取り戻した。
両手で社長の胸板を押して体を離した。
「こー言う事、誰にでもしない方がいいですよ」
「こー言う事?」
「社長の唇に、その.......さっきの彼女さんの口紅が付いてます」
ドキドキと煩かった心臓は、ズキズキと痛み出した。
分かっていたはずなのに、この人は女遊びが激しくて、来るもの拒まず去るもの追わずで有名な人だって事....
「どこに付いている?」
「えっ?ここの所に」
自分の唇を指差しながら、ここだと説明した。
「分からん、貴様が拭え」
「えっ?」
私が⁉︎
「早くしろ」
何だか、彼がオレ様だから信長様と呼ばれている理由が分かった気がした。
「.............すごいオレ様」
「何?」
「やっ、何でもありません」
つい口から出てしまった言葉に彼の表情が険しくなったから、慌てて指で彼の口に残った口紅の跡を拭った。
「取れました」
どうして私がこんな事。
憧れの人と、その人の彼女とのキスシーンを見ただけでもショックなのに、そこに付いた口紅の跡を取らされるなんて。
机の上に置いてあるティッシュを一枚抜き取り、口紅の付いた指を拭きながら、取れたことを伝えた。
「おい、誰が指で拭えと言った」
信じられないけど、彼の口から出た言葉は、ありがとうでも、悪かったなでもなく、指で拭った事へのお叱りの言葉。
どう言う意味なのかを聞きたくて顔を上げると、ありえない至近距離に彼の顔があり、
「えっ?........んっ!..............」
驚く間もなくその距離がゼロになった。