第19章 オレ様と私
「このまま社まで戻れ」
「かしこまりました」
外での仕事を終え、社に戻る為車に乗り込んだ。
このまま急な仕事が入らなければ、今夜はセナとの時間を作れそうだ。
「ふっ......」
「何か、良いことがありましたか?」
自然と笑いが漏れ、運転手が聞いて来た。
「いや、特にない」
セナに会うと思うだけで心が踊るなど決して言えんが、口元は自然と綻ぶ。
何かを楽しみにした事など無かったが、奴と過ごす時間は今の俺にとってなくてはならいものだ。
スマホを取り出し、今夜会える事と飯も一緒に食べる事をメッセージで送る。
一人暮らしをするまで、料理はほぼして来なかったと言うセナの作る飯はまだ勉強不足を否めないが、必死で作っている事が分かり十分上手い。
この間はロールキャベツが見事に崩れて肉団子とキャベツ煮の様になっていたが、失敗したと顔を赤くしながら出されると男心がくすぐられ、たちまち料理ではなく奴を味わいたくなる程だ。
「今夜も楽しみだな」
そろそろ返信があると思いスマホを見るが、珍しくない。
いつもなら、ちゃんと仕事や勉強をしているのかと思うほどのクイックレスなのだが.......
スマホから一旦目を離し窓の外を見ると、ちょうど信号待ちの為、車が停止した。
何の気なしに路上を行き交う人を見ると、飲料サンプリングをしている女の姿が目に入った。
(セナ?)
後ろ姿しか見えないが、あの髪、背格好、そしてショート丈のパンツからは、ほっそりと引き締まった綺麗な脚が惜し気もなく披露されている。
(こんな所で、しかもあんな格好で何をしている?)
道行く男どもの視線がセナの足に注がれる。
「っ........」
車を降りようとした時信号が青になり、車が動き出した。
「おい、車を止めろ」
「申し訳ありません。ここ一帯は駐停車禁止となっておりますので」
「いいから止めろ!」
「いけません社長、敬太郎さんよりキツく言われております」
「おいっ、」
敬太郎に何を言われたのか、俺の言葉にはこれ以上反応せず、運転手は車を走らせ社へと戻った。
俺がセナを見間違えるはずがなく、またメッセージの返信が遅かった事から、俺はその夜、何時もより早くセナの部屋へと向かった。