第2章 XOXO
階段を下りた非常扉の先には絨毯敷きの廊下が広がっていて、ある部屋の前で一人の男性が立っていた。
「おっ、お前がセナだな。俺は社長秘書の豊臣秀吉だ。困った事があれば何でも聞いてくれよ」
秘書にしておくにはもったいない程のイケメンが素敵な笑顔で話しかけてくれたけど、今の私は彼の後ろにある部屋の扉の向こうにいるであろう織田信長に会いたい気持ちのが大きくて.......
どんなに最低な話題で世間を賑わしていても、彼は私にはやっぱり、憧れのアスリートで、私に新しい生き甲斐を与えてくれた人。
「あの、春海セナです。宜しくお願いします」
ぺこっと秘書の秀吉さんにお辞儀をして、私は社長室へと向かった。
「あっ、おいセナ、今社長はっ!」
秀吉さんは何か叫んでたけど、それを聞かずに私は社長室のドアを勢いよく開けた。
「社長!セナです」
よく考えたら、ノックもせずに入ってしまったけど、時すでに遅し......
勢いよく入って行った先には、社長と女性の姿が.........
「セナ.......?」
呆れた社長の声。
「..........あ、ごめんなさい!」
やってしまったと焦っていると、
社長と一緒にいた女性が突然、社長のネクタイを引き寄せキスをした。
「っ........................」
キスは、したことも無ければ、しているところを見るのも初めてで...........ドラマの様に、まるでスロモーションの様に、目の前の二人の重なった唇は離れた。
「じゃあね」
女性は社長に笑顔で手を振ると、私を一瞥し、優雅に歩き去って行った。
女性の顔はテレビで見た事がある。
あの人は確か、お天気キャスターの紅林麗美(くればやしれみ)。確か、社長の今の彼女って噂の......
「部屋に入る時は、ノック位しろ」
いきなりの光景にドキドキが止まらない私に、社長は唇を拭いながら話しかけてきた。