第16章 クランクアップ
「だけど君に会って、久しぶりに演技を楽しいと思えたから、礼を言うのは俺の方だよ。セナ、ありがとう」
「義元さん.......」
「ふふっ、そんな顔しないで。俺は本当に、君が幸せで笑顔でいてくれるならいいんだ」
ふわりと、綺麗な顔が優しく頬を緩めた。
「ありがとうございます。私も義元さんに会えて、一緒にお仕事が出来て本当に幸せでした」
苦しい時、何度も差し伸べてくれた手を握る事は出来なかったけど、それでも義元さんは、私に温もりを与え続けてくれた。
「まだ撮影は終わってないよ。それまでは、役の中だけど君の恋人でいさせて」
涙目の私をあやす様に、義元さんはふわりと優しく抱きしめてくれた。
映画、【せんせいとわたし】は、恋を知らない平凡な女子高生が新しく赴任してきた先生に一目惚れし、その想いから逃げる先生にお構いなく、思いをぶつけていく恋の物語。
色んな困難を乗り越えて、最後は結ばれハッピーエンドになるお話しだ。
そして今日は、その最後のシーン。
一度は思いを通わせあった二人が、世間の荒波に揉まれすれ違ってしまい、そこから2年の月日を経て、再び再会する感動のシーン。
社長には言わなかったけど、これは、先生とのキスシーンがある大切な場面だ。
「それでは最終シーン本番行きまーす。.......」
カチッ!
「............先生.....?」
「迎えに来たよ。....俺は......君じゃなきゃ、もう息もできない」
「..........先生!」
「もう、離さない」
走り寄る私をぎゅっと義元さんが抱きしめ、お互いに見つめ合う。
「愛してる........」
目を閉じると、義元さんの唇が重なった。
そして、そのまま待つ事数秒....
「..................はいっ!カットォ!お疲れ様でしたぁ、クランクアッです!」
カットの言葉で私達は体を離し、笑い合い、お疲れ様を言い合った。