第16章 クランクアップ
そして、私のデビュー作となる映画の撮影も、いよいよ最終日となった。
「おはようございます!!」
スタジオに入って元気よく挨拶をした。
でも、まだ誰もいない。
最後の日だからスタジオの空気を目一杯吸い込みたくて、予定より1時間以上早く来てしまった。
「セナ?」
名前を呼ばれ振り返ると、
「義元さん!!」
一番乗りだと思ったのに、先に義元さんが来ていたみたい。
「やっぱり、今日はセナなら早く来る気がしてたんだ」
金色の綺麗な目を細めながら、義元さんは笑った。
「あ、はい。最後だから、お世話になった機材達にお礼が言いたくて..」
「クスッ、セナらしいね。ほんといつも仕事熱心で」
「そんな事....それに、この仕事だって、義元さんが紹介してくれなければ出来なかった仕事で、本当に感謝してるんです。ありがとうございました」
あなたの存在に、私がどれほど救われたか....その気持ちは一生忘れる事はできない。
「別に、俺がこの仕事を君に紹介してなくても、君はその内大きな仕事をしてしたと思うよ?」
「あ、ありがとうございます」
そんな風に言ってもらうと照れるけど、嬉しい。
「それに、まだ仕事は続くよ?もしもまた俺と共演する事があれば、その時は引き受けてくれる?」
悪戯っぽく笑いながら、義元さんは私を見た。
「も、もちろんです。反対に、義元さんに断られない様に、私も頑張ります」
「クスッ、君は本当に俺の気を惹くのが上手いよね」
「えっ?」
「何でもないよ。君の存在に助けられたのは俺の方だってこと」
「あの.......」
「クスッ、また困らせちゃった?でもね、本当なんだ」
義元さんは、少しだけ陰りのある笑みを浮かべる。
「生まれた時から歌舞伎の道に進むべく育てられて、それを自分なりに受け止めてはいるけど、たまにね、綺麗な物だけを見て過ごせたらと逃げたくなってたんだ。この映画も正直面倒だと思ってたしね」
........意外だった。
こんなに綺麗で完璧で、歌舞伎界のプリンスと言われる義元さんでさえ、何かに悩む事があるなんて.........