第16章 クランクアップ
「はぁ〜!?」
監督の呆れた声。
「どれかなんて選べません。皆さんに迷惑をかけたのは本当ですから、全部でお願いします。あの.....NGは自信ないですけど頑張ります。本当に、すみませんでした!」
ぺこりと、深〜く頭を下げた。
「........ブッ...」
ブッ?
「...ブハハッ!...さすが、あの信長を陥落した女だな、肝が据わってる」
えっ?
監督も、その他のスタッフもみんな大笑いしてる。
「あの........」
「冗談だよ。ちょっと懲らしめてやろうと思っただけだ」
呆然とする私の頭を監督が撫でた。
「色々あったんだろ?男女の事は、俺には良く分かんねぇが、信長の事は良く知ってる。アイツの最初の映画を撮ったのは俺だからな」
それは、陸上の世界から突然消えた彼が次に現れた世界。
「あの映画.....監督だったんですか?」
「ああ、当時まだ高校生のガキなのに、妙に冷めた奴で、でも圧倒的な存在感を放ってて、決して誰にも心を許さない可愛げのない奴だったよ」
あの映画の信長を、私も覚えてる。
いつも、走る姿しか見たことが無かった私にとって、初めて彼の声を聞いた瞬間だったから。
「その後も何本かあいつを撮ったけど、あいつが俺に連絡をよこしてきてのは昨日が初めてだ」
「え?」
「お前が、勝手に現場放棄をしたのは自分に責任があるからお前を責めるなと言って切りやがった。ったく、こっちは年甲斐もなく奴からの電話で緊張したってのに、相変わらず愛想の無い奴だよ」
そう言う監督の顔は楽しそう。
(.......昨日電話してたのって、ケイティだけじゃ無かったの?)
「全然意味が分からなかったが、今朝のニュースを見て納得した。お前が、この間泣き崩れた大体の理由もな」
「まぁ、相手が信長様ですからね〜、現場放棄もしたくなりますよね〜」
他のスタッフさんも納得の言葉を漏らす。