第16章 クランクアップ
「ここからは私が連れて行くから。社長はもう行って。秀吉ちゃんが悲鳴を上げてたわよ」
「........そうだな」
ぽんっと、私の頭を再度撫でると、車の方へと体を向けた。
「ま、待って!」
思わず、信長の手を掴む。
「........セナ?」
信長は、振り返って優しくその手を握り返してくれる。
「あ、その..........」
昨日から、ずっと一緒だったから........
この手を離したら、また二日前の二人に戻ってしまう気がして、急に不安になった。
「先行ってるわね」
ケイティが気を利かせて先に歩き出した。
「セナ」
「ごめんなさい、.......何でもない」
秀吉さんが待ってるって言ってた。これ以上、私の勝手で彼の時間を削ってはダメだ。
「そうか、荷物がまだ助手席に乗ってるだろう、忘れるな」
彼は運転席に乗り込み、私は助手席のドアを開けて、席に置いた自分の荷物を取ろうと身を乗り出し、腕を伸ばした。
グイッ!
「えっ?.......んっ!」
手を引っ張られると彼の唇が私の唇に重なり、ちゅっ、ちゅ、と、軽く数回啄んで彼の唇は離れた。
「っ...........」
外でのキスは禁止だって、言ってるのに....
「言っておくが、車の中は外ではない。それに、そんな不安そうな顔の貴様を置いては帰れん」
「っ、......」
全てをお見通しの彼に、言葉が出ない。
「セナ、貴様は俺を本気にさせた唯一の女だ。もっと自信を持て」
もう一度、軽く触れるキスをすると、私の頭を優しく撫でた。
「貴様は笑顔が似合う。胸を張って笑顔で行ってこい」
「......はい」
胸にあった不安は彼の言葉とキスで消え去り、私は彼の車のドアを閉めて、ケイティの後を追った。