第13章 観覧車
観覧車の中、聞こえてくるのは唾液の絡み合う音と、時折漏れる自分の声。
数分前までは、絶望の淵にいたはずなのに.......
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昨夜、私を抱いた後、何も言わずに社長は部屋を出て行った。
泣いても、泣いても、社長は戻って来てはくれない。
でも、彼に抱かれた身体は悲鳴をあげていて、心身ともに疲れ果て私はそのまま眠りに落ちた。
そして起きると、気怠さと、身体中に刻まれた彼の痕が夢ではない事を教えてくれた。
直接終わりだと言われた訳では無かったけど、もう......限界だった。
とりあえず実家に帰ろうと思い、2、3日分の着替えと貴重品をカバンに詰めた。
そして........
「本当は、置いて行こうと思ったけど、これだけはいいよね」
社長から贈られたワンピースと靴はどうしても置いて行く気にはなれなくて、袖を通した。
出て行く事を紙に認めようと、ペンと紙を用意したけど、涙が溢れるばかりで何も思い浮かばず、ただ「ごめんなさい」とだけ書いて、部屋を後にした。
エレベーターを待つ間も、乗り込む時も、社長がもしかしたら乗ってくるんではないかと何度も思ったけど、結局そんな奇跡は起こらず、この中で、社長に抱きしめられキスされた事を思い出しながら、エレベーターを降りた。
ロビーを出て振り返り、織田プロのビルをもう一度見上げた。
ここへ来たのは、まだ肌寒さの残る三月だった。
そこからまだ三ヶ月程しか経っていないのに、もう出ていくことになるとは思ってなかった。
「お世話になりました」
ビルに向かって深くお辞儀をし、その場を後にした。
とは言え........
「どこ行こう.........」
実家に帰るつもりでも、足取りは重い。
第一、親に何て説明しよう。
学校も、撮影もサボってしまった。多分、みんなから連絡が来るに違いない。誰とも今は会いたくないし話したくない私は、スマホの電源を落とした。