第12章 本当の気持ち
平静を装おうと思った矢先、甘いセナの匂いが鼻を掠めて、簡単に俺の理性を奪った。
『待て』
そこからは夢中で........セナが泣き出すまで手を止めることが出来なかった。
自分自身でも信じられないほどに、セナに心を乱された。
『っ、社長は、私の事が好きなんですか?』
そして奴は、そんな俺を追い詰める様に言葉を重ねてきた。
駆け引きも何もない。ただ素直に俺の心を知りたがるセナに動揺した。
『好きかだと?ふっ、面白い事を聞く。生憎、俺はそんな感情は持ち合わせておらん』
そう答えるのが精一杯だった。
セナは、感情に支配されない様生きて来た俺に、真っ直ぐな気持ちで遠慮なく揺さぶりをかけてくる危険な存在だった。
だが、どうしても欲しかった。
セナを.....手に入れたい。
『今まで、一人の女と専属契約をした事はないが、貴様となら、専属契約をしてやってもいい』
自分の中に沸き起こる初めての感情を誤魔化す意味でも、セナを手に入れるのに理由が必要だった。
だから、専属契約をすると言って奴を縛った。
それなのに..........
気づけば、いつもセナの事を探すようになった。
エレベーターの中でさえ、触れたい気持ちが抑えきれず、セナを抱き寄せ口付けた。
この気持ちを何と呼ぶのか.............
浮かび上がりそうになる答えを必死でかき消した。
何かに縋ったり、期待したり、信じてしまったらおしまいだ。
この世の中は、裏切りしかない。家族でさえ俺を裏切った。信じたら最後、足元を掬われる。
だから、日々セナに惹かれていく自分が怖かった。
俺の事が好きだと、セナが俺を好きだと言うたび、心を持っていかれないように冷たく突き放すしかできなかった。
それなのに、セナの初めてはすべて欲しかった。
奴の唇に口づけるのも、奴の肌に触れるのも、漏れる甘い声を聞くのも。ゆっくりと全てを手にして行くつもりだった。