第12章 本当の気持ち
元々.....セナを見つけたのは偶然だった。
織田プロには様々な部門があるが、その中の新人開発部では、路上でのスカウトの他に、SNSをチェックして売れそうな奴を探し出しスカウトする事もよくやっていた。
社内視察も兼ね、スカウト班のデスクを覗いてみると、いつも通りSNSのチェックの最中。
その中で、ふと俺の目に止まる画像が一枚。
「おい」
思わずマウスを操作するスタッフの手を止めた。
「一つ前のやつを見せろ」
それがセナだった。
友達と楽しそうに笑って写る写真のセナは眩しくて、太陽の様だと思った。
実際に会った時、セナはギプスに松葉杖と、その姿は痛々しかったが、照りつける太陽の下、日焼けや紫外線も気にせず、燦燦と照りつける太陽を浴びながらベンチに腰掛け目を瞑る彼女はとても眩しくて、一枚のフイルムの様に俺の目に焼き付いた。
はっきり言えば、芸能界は運だ。
どんなに歌が上手くても、顔が綺麗でも、スタイルが良くても、運とタイミングがなければこの世界では通用しない。
ごく稀に、類なる容姿や美声でもってこの世界に出てくる奴がいて奇跡と騒がれるが、これも全て運だ。その運の上に更に努力を重ねた者だけが得られるのが天才と言う称号だと、俺は思っている。
だから、会社の者がスカウトして来た人材ならば誰でも良かったし、見るからに売れなさそうな奴は、面接の時点で外して来た。自ら欲しいと、俺の事務所に欲しいと思ったのは、セナが初めてだった。
社長と所属タレント。最初はその関係のつもりだったが、半年ぶりに会うセナはあの頃よりも眩しく綺麗になっていて、気づけば抱き締めていた。
その日から、抱きしめたセナの感触が忘れられなくなったが、何かに固執するなど俺らしくもないと、自分からは決してセナには近づかない様にした。
なのに、
『本当に、ありがとうございました。失礼します』
そんな俺の気も知らず、セナはお礼だと言って簡単に社長室へとやって来た。