第10章 壊れた関係
夜になり、またドアベルが鳴った。
ビクッと、身体が反射的に身構えてしまう。
気の短い彼を待たせると、それだけ行為も激しくなるから早く開けようとドアへと走る。
ガチャと、ドアを開けると、不機嫌そうに冷たい目をした彼の姿。
「お疲れ様です」
少しでも、会話ができないものかと、私は今日も平静を装い彼に話しかける。
「ん....」
珍しく、一音だけど返事をしながら彼は靴を脱いだ。
あれ?今日は機嫌が良い方かも?
もう少し、お話しできるかな.......
「き、今日は、珍しくスーツなんですね。いつものラフな格好も好きですけど、スーツ姿もすてき.....んんっ!」
お話しは、口を塞がれ強制終了された。
「っ、..............んぅ、ん、.........」
廊下の壁に押さえつけられたまま、彼は私の唇を奪う。
いつもの流れだ。
でも、今夜は......
「っ、......やっ、タバコのにおい.....」
彼は、(多分)タバコは吸わないはずなのに.......
今日は、彼のキスからはタバコの味がする。
「あぁ、今日は接待があってタバコを吸ったからな」
口を少し離して、珍しく私の質問に答えてくれた。
「えっ、タバコ、吸うんですか?」
「付き合いの範囲だ、普段は吸わん。だがこれからもある。この味にも慣れろ」
「ふ、............んっ」
再び唇が塞がれた。
彼のキスの味はいつも、甘いか少しお酒の味がするのに、今日はタバコの味がして、悪い事をしている気がしてしまって集中できない。
「ん.......いやっ、........」
「拒むな、慣れろと言っている」
「んっ...........」
俺のものだとか、この味にも慣れろとか、そのうち飽きて捨てるつもりなのに、どうしてそんな思わせぶりな事を言うの?
まるでこの先もこの関係が続いて行く様な、そんな思わせぶりな事を........
「っ、......あの、まっ、んんっ!」
「いい加減覚えろ、貴様の待てには待たん」
口づけながら、彼は性急に私の服をたくし上げ、脱がせ、また唇を重ねた。