第3章 ひたむきな姿勢
練習の途中であがりコートを出た萌の元へ仁王が様子を見に来る。確かに彼から再三無理をしないよう念を押されていた。気持ちが先走っているのか、体の疲れに気付きにくくなっていたのかもしれない。
「試合前に怪我してどうする」
「…大丈夫です。ほっとけばそのうち治ります」
「駄目じゃ。俺が許さん」
ばつが悪くてつい強がってしまうが、意外にも厳しい口調で返され萌はびくっと驚いた。譲れない部分があるらしい。
そのままコートを離れると、有無を言わさず部室へ連れて行かれた。
「ほら。手、貸してみんしゃい」
アイシングの準備をした仁王がおもむろに自分の手を伸ばして、こちらの手を差し出すよう促してくる。
うわ…恥ずかしいし怖いけど、しかたない…
腕を取られ患部に触れられると痛みが走り、つい声を上げてしまった。
「いたっ…!」
「悪い、そっとやってるつもりなんじゃが…」
その反応に彼は驚いて一旦手を止め、すぐに謝ってきた。
「…痛いか?もう少しじゃき、耐えてくれ」
こちらの様子を見つつ、とても慎重に、丁寧に接してくれる。
めちゃくちゃ優しい…見た目や雰囲気が怖いだけで、すごく優しい人なのかもしれない。
今までも優しい言葉は掛けてもらっている。だが、飄々とした態度や読み取りづらい表情のせいで解りにくかったのだ。
手を掴まれている間中萌は心が落ち着かず、仁王の大きな手を見つめていた。
「よく我慢したのう」
処置を終え穏やかな口調でそう告げた仁王は、再び腕を伸ばして萌の頭を柔らかく撫でてきた。くすぐったいくらい優しい仕草に途端に頬が熱くなる。
早まる胸の鼓動を何とか抑えていると、恥ずかしくて焦っていた萌と違い仁王は普段の調子で尋ねてきた。
「お前さん、なんでそんなに頑張るんじゃ?」