第15章 副部長の言葉
一日の練習メニューが終了し、大会前の選手達の状態を確認するために真田が声を掛けてきた。
「はい…もちろん全力を尽くします。でも…」
不調だったことも把握されている。彼が相手では、きっと誤魔化しは効かない。観念して現状を正直に打ち明けた。
「どう接していいか、分からなくて…」
それを聞くと真田は、いつもの鋭い目をさらに光らせて口を開いた。
「お前はよくやっている。今までも前を向いて頑張ってきた。いいか、迷うな」
仁王の名前は出さなかったが、すぐに誰のことか汲み取ってくれたようだ。
「お前が出来る事はただ一つ、奴を信じてやる事だ」
力強く諭されて、萌はその言葉に電撃が走ったようにハッとなる。
「本当の事を隠したがり煙に巻くような奴だが、ダブルスパートナーのお前が疑っていては、事態は何も好転しないだろう」
まさにそうだ。忘れていた…あたしが信じなくてどうするの。
自分を信じて本音をぶつけて欲しい、と願っているあたしがまず、彼を信じなければ。
「奴を信じろ」
ずっと真逆のことをしてしまっていた。
今からでも大丈夫…?歪んでしまった関係を修復出来る?
真田が喝を入れてくれたことで、進むべき道がはっきりした。彼の優しさと的確なアドバイスはとてもありがたく、前向きになれた気がした。
『今お前さんの目に見えているのは柳生かもしれんぜよ』
翻弄されていた。心が弱いから。
言葉のトリックにも、何にも揺るがない強い心が欲しい。
『俺の欲しいもの、お前に解るかのう?』
言葉が真っ直ぐじゃないから不安になる。でもその分、彼は態度や行動で示してくれていたのではなかったか。例えそれが小さなサインでも。
あたしが疑っていたら、余計に言えなくなる。
彼の心がひらくようにあたしから信じれば、見えてくるものがあるはず。
ひとまずは関東大会を乗り切るために、信じてプレーするんだ。
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