第3章 ひたむきな姿勢
放課後部活に向かおうと校舎を出たところで、萌は偶然仁王の姿を発見した。彼は制服のズボンのポケットに手を入れ、少し眠そうに歩いている。肩にはテニスバッグをかけていて、コートへ向かう途中のようだ。
「…おう、夢野」
距離が縮まり近付いたところで目が合ってしまい、いきなり声を掛けられる。
「こ、こんにちは」
「今から部活か?」
まさか生徒の多いなかで話し掛けられるとは思わなかった。急な展開にやや焦ってしまう。
「俺もだ。一緒に向かうかのう」
頷くと彼はごく自然に歩調を合わせてきた。周りから視線を感じどぎまぎと落ち着かない萌と違って、仁王はいたって普段通りに見える。
動じてない…こういう時堂々としているのって、男らしいと思う。
「お前さん、練習はキツくないか?」
仁王が隣から問い掛けてくる。さりげなく話題を振ってきてくれるのはありがたい。
「平気です」
「ほお。それは頼もしいのう。体、疲れたり痛めたりせんのか」
「いえ…気付いたら腕や足が痛くて、家で冷やしたりしますけど」
萌の返答に仁王は不意に足を止めた。
「それはいかんじゃろ」
萌も立ち止まって振り返ると、彼は神妙な面持ちで続けた。
「あのな…そういうのをキツいと言うんじゃ。お前さん、割と猪突猛進なタイプじゃの。無理は禁物ぜよ」
「でも、頑張りたいんです。頑張ってついていけば、いつか出来るようになるかな…って」
「そうかのう」
珍しく真面目な注意を受けて少し驚く。納得がいっていないような反応を示されたが、萌の言葉は本心からのものだった。
ただでさえ実力に天と地ほどの差があるのだ。まずは出来るだけ頑張らなければ話にならない。
そんな会話をしてから数日後、ついに部活中に腕を痛めてしまった。
男子の打つ球を打ち返し続けていたからか、右手首の調子がおかしい。どうやらひねってしまったらしい。
「言った側から…仕方ないのう」