第2章 詐欺師のスタイル
「騙されてはいません…多分」
「ほう?根拠はあるんか」
すると仁王は萌の返答に興味を示し、続きを促してくる。
「…柳生先輩は人を騙す人じゃないから」
先程話してみて感じたままを答えた。そんな事解るものか、と反論されるかと思ったが、意外にも彼は引き下がった。
「そうか。お前さんはそう感じたんじゃな」
「実は違うみたいな思わせぶりな発言はやめてください、仁王くん」
柳生が迷惑そうに返すと、二人で言い合いが始まってしまった。置いてきぼりとなった萌に気付いた仁王が話を戻し、最もらしく説明してくる。
「つまりじゃな…これは相手の虚をつき、隙を作るためのいわば立派な戦術よ」
戦術、か…
試合中、いや普段からそもそも相手を騙そうとして打ってはいない。自分が良いショットを打てた時にポイントになると思っていた。
行動の起点、動作の前提がまるで違う。逆に新鮮過ぎて、新たな世界がひらけたような気分になった。
そうか、あの時の話…
そこでにわかにひらめき、休憩時の話と繋がった。
今日の勝ちたいか?という台詞にはきっと、覚悟の意味合いが含まれているのだろう。相手を欺く覚悟はあるか、と問われたのだ。そう思うと心が一瞬引き締まった。
「柳生のほうが向いてると思うがのう。誰にでも合わせられるし」
「だからこそじゃないですか?仁王くんも少し相手に合わせる事を学んでは?」
「…プリッ」
考えを巡らす萌の横で二人はまだ言い合っている。仲の良さそうな様子を見て、萌は思わず小さく吹き出していた。
二人とも仲良いのね、良いコンビで何だか微笑ましいな…
.