第2章 詐欺師のスタイル
「…これにて終わりです、アデュー」
柳生の十八番、レーザービームを華麗に打たれて、仁王が半ば呆れ気味にボールを見送っている。
「…おいおい、それ打つんか」
「無論、夢野さんには打ちませんよ。仁王くんにのみ使用します」
結果は当然負けてしまったが、試合後柳生が萌に話し掛けてくる。
「お疲れ様でした。最初にしてはなかなか良い試合でしたね」
彼は礼儀正しく自己紹介した後、微笑みを湛えながら申し出た。
「私は普段仁王くんとダブルスを組んでいるので、何か困り事があったら遠慮なく聞いてください。参考になると思いますよ」
解りやすい丁寧な受け答えに心がほっと落ち着く。
「じゃあ…仁王先輩はどんなプレイスタイルなんですか?」
これからペアとしてやっていくのだ。そのくらい承知していないと、と思い早速聞いてみた。
「仁王くんはコート上の詐欺師という異名を持つくらいですから、呼吸を合わせるのは大変かもしれません」
え、何そのパワーワード…
その異名のインパクトに驚く萌をよそに、柳生はすらすらと先を続ける。
「しかし頼りにはなります。駆け引き、罠、騙し討ち、撹乱…どれも得意だと思いますよ」
不穏な単語しか出てこなかったんですが…
予想よりひどい答えにただただ不安に苛まれる萌。
つまり相手を騙し、欺くプレイスタイルということだろうか。仁王の醸し出す、正体を掴ませない独特な雰囲気の理由が分かるような気がした。
「…柳生、何を吹き込んどるんじゃ」
そこへ水飲み場から仁王が戻ってきて、自分が咎められた訳でもないのにびくついてしまう。
「おや、人聞きの悪い。私は彼女の質問に事実を伝えていただけです」
「どうせ良からぬ事じゃろ。大体解るぜよ」
柳生に深いため息をつき、今度は萌に視線を移してくる。
「お前さん、騙されてはいかんぜよ」
ニヤリと薄く笑みを浮かべて試すように言われ、何となく対抗心が湧いてきた。