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illusionary resident

第2章 詐欺師のスタイル


 当面は目前の地区予選を勝ち抜くことを目標に、萌は今日も男子に混ざって練習を行う。ここ数日、練習前のアップでは仁王が相手をしてくれていた。
 まだ慣れない…というか少し怖いし、緊張する…

「お前さん、人の嫌がる事は嫌いじゃな?」

 グループ練習後、コートの端に座って休憩していた萌の元へと歩いて来た仁王から唐突に問いを投げ掛けられる。

「打てば解る。素直な返球ばかりじゃからの」

 不思議そうな顔を見せた萌に彼はそう補足した。
 そういう意図があったのね…
 分析されて、今まで単なるアップだと思い何の疑問も持たずに打っていたことが恥ずかしくなった。

「テニスでは人の嫌がる事も必要よ」

 仁王はその場に萌と同じように座り込んだ。隣に来られてにわかに緊張し心拍数が上がる。

「勝ちたいか?」

 当然のことを聞かれ、こくこくと何度も頷くとフッと笑われた。

「なら、相手の嫌なところにボールを落とすんじゃな」

 基本となる戦術を指摘されてしまった。試合になれば無意識にでもそう動くとは思うが、得意ではない事は確かだ。

「試合になれば出来ると思っていても、お前さん、切り替えは上手くなさそうじゃからの。普段から意識したほうがええ」
「解りました。やってみます」

 図星をさされ彼の意見に大いに納得したため、しっかりと頷いた。苦手などと言っている場合ではないし、先輩がアドバイスをくれたのだから聞かない道理はない。
 すると仁王はじっと萌の顔を見つめてくる。緊張と同時に恥ずかしさがこみ上げ、何事かと焦っていると彼はしみじみと呟いた。

「…いい返事じゃな」

 何だかこの人、本当に掴みどころがないな…
 仁王のマイペースな挙動につくづくそう感じた。
 先輩としてリードしてくれるし優しいのだが、飄々としていて真意が掴みにくい。なのに、こちらの事は次々と見抜かれていっている気がする。



 今日は練習の締めくくりにダブルスの練習試合が組んであった。相手は3年レギュラーの柳生と丸井のペアだ。
















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