第14章 短期合宿2
「も…もう、逃げませんから」
だからと言って、ずっと抱きしめられているのは恥ずかし過ぎる。許しを乞うように小さくお願いするも、仁王は萌を離そうとしなかった。
「…や、もうちょいこうしていさせてくれんか」
そう言って回した腕にきゅっと力を込める。遠慮がちな手つきに、そのうちひどく切なくなった。
彼の胸の中はやっぱり心地良くて、離さないで欲しいといつの間にか心の内で願っていた。
「…頼む」
ふと掠れたような小さい声が降ってくる。
「もうよその男の胸で泣くんは禁止。な?」
上を向くとこちらを覗き込む彼と至近距離で目が合い、恥ずかしくなって慌てて言い返した。
「あ…あれは柳生先輩だし、優しさからの行動で…」
「だから柳生でも禁止」
どうして?
どうして他の人はダメなの?理由は教えてくれないの…?
いつも誤魔化されてかわされて、本当の姿が見えない。本心を聞かせて欲しい。本当のあなたが知りたい。そう強く望んだ気持ちが口をついていた。
「どうして…」
すると仁王は、ゆっくりと深い息を吐いて小さく呟いた。
「言わんといかんか…」
回した腕に再び、今度はぎゅっと強く力が込められる。まるで追い詰められたみたいに。無意識のようなその仕草から緊張が伝わってきて驚いた。
もしかすると彼は、本音を口に出すことに一種の不安や恐怖を感じているのではないか。本心をさらけ出すことに抵抗があるのは、今までの言動を見ていれば明らかだ。だからいつも周りを惑わし、自分の正体をはぐらかす。
そう推測してしまったら、無理に気持ちを聞き出そうなんて出来ない。彼の呟きに否定も肯定も出来ず、萌はそっと胸に顔をうずめた。
「…そんな可愛い反応しなさんな」