第13章 紳士の謝罪
重い足取りでコートへ向かうが、この日は仁王が部活を休んでいた。顔を合わせずホッとするような、姿を見られなくて残念なような複雑な気分だ。
一日の練習が終わり皆が解散していくなか、最後までテニスコートに残っていた萌のもとに柳生が静かに近寄って来た。
「…この間は、本当にすみませんでした」
彼は言いにくそうに話を切り出した。突然謝られ、ぼうっとした頭で記憶を巡らす。
「この間…」
「私が仁王くんに化けて、あなたを誘った時のことです」
うつろな目を宙に向けぼんやりとする萌に、説明を付け加えてくる。
「…それは、もういいんです」
デートの件に関しては、柳生に対し特にどうこうと文句がある訳ではなかった。姿を見抜けなかったのもあたし、承諾したのもあたしだ。
おかしいと気付いていれば、そして本人に問い詰めていれば。あるいは、一切を受け入れてあの日を楽しんでいれば…
「どうしたらいいのか、解らなくて…」
どう接したらいいのか、どんな顔をしたらいいのか。
思い悩むうち、ずっと我慢していた涙が自然と零れてきてしまった。人目が少なくなり気持ちが緩んだのだろう。
「…あなたに泣かれると胸が痛みます」
柳生は責任を感じているのか、萌の傍まで来ると、腕を広げふわっと抱きしめてきた。
「泣き止むまで、こうしていましょうか」
彼の申し訳なさと優しさを感じ、言われたままに胸の中でじっとしていた。
すると間もなくして、コート内にザッと足を踏み鳴らす音が聞こえ、ハッとして顔を上げる。そこにはなんと制服姿の仁王が立っていた。
なんで…
今日は部活を欠席していたはずなのに。用事が済んで一人で打ちに来たのだろうか。
柳生に抱きしめられている場面を見られ、血の気が引く思いで体を離した。
「柳生…お前何してる」