第13章 紳士の謝罪
日曜日の一件の後、学校でも部活でも、萌は仁王と普段のように接することが出来なかった。
「今のは良かったぜよ」
練習中プレーを誉められても、素直に受け止められない。
「偉いな」
萌の頭をぽんと触りながら、冗談っぽく笑いかける仁王。いつもの彼がやりそうな仕草にも調子を合わせられずにいた。
「…ホントに、仁王先輩ですか?」
「え…」
萌の疑いの問い掛けに仁王が驚いているのが伝わる。何故こんなことを言ってしまうのか、自分でも止められない。
疑いたくないのに、解らないよ…
デートの一件が何気にショックで、彼の挙動や言動を警戒してしまっている。これ以上傷付きたくない、と無意識に避けようとしているようだ。
隠したり、誤魔化すのはやめて。あたしにだけは、ちゃんと彼自身の言葉で正直でいて欲しい…なんて。
そんな風に我が儘に思うのは、彼が好きだから。
あたし、こんなにも好きだったんだ…仁王先輩のこと。
そう気付くほど、想いを自覚するほど、上手く接することが出来ない。
本当はもっと話したいのに。近付きたいのに…
小さな葛藤が広がって、ついにテニスのプレーにまで表れ始めた。ミスを引きずって落ち込んで、また新たなミスを重ねる。
「ご…ごめんなさい…っ」
ここはコートの中だ。プレーに集中するべきなのに。
俯いてラケットを抱え込み小さく縮こまる。自分が心底イヤになって消えてしまいたい。
「夢野…」
仁王は戸惑いの表情を向けてきて、何と声を掛けていいか分からない様子を見せていた。
「どーしたあ?ここにきて不調かぁ?」
丸井が心配そうに萌のもとへ寄ってくる。
「今は無理すんなよ。調子はまた復活して上がってくさ」
ジャッカルにも優しく励まされ、泣きそうなのをどうにかこらえながら練習を終えた。
そんな調子で、塞ぎ込んだ気持ちのまま過ごす日々が続く。
部活に行くのが怖くなってきた…