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illusionary resident

第12章 偽りのデート


「二人で練習したいと伝えてくれ、と言ったハズなんじゃが…」

 しかも、仁王が予定していたものと違う内容が萌に伝わっていたらしい。
 柳生と会えず終いで帰宅した仁王は、彼からの連絡で初めて知り、駆け付けてくれたようだ。

「どうしてデートになったのかのう…」

 仁王は練習のつもりでいた、柳生はそれをデートだと思った、ということなのだろうけれども。
 萌から目を逸らし困惑気味に話す仁王を見て、次第に胸がチクチクと痛み始めた。
 デートだと困るのかな…?それに、練習のお誘いならそう言ってくれればいいのに。柳生先輩に頼むほど言いづらいの?
 …それとも……嘘、なのかな。何か都合が悪いことを隠してる…?
 何だかよく解らない。でもはっきりしているのは、このデートは仁王の希望で決まったものじゃない、偽りのもの。別に仁王がデートしたかった訳じゃない…そう解釈して落ち込む。

「夢野、その……すまん。もし良ければ、一緒に打ってくか?それとも、どっか行きたい所があるか?」

 仁王は気を利かせて一緒に過ごす提案をしてくる。
 だが弾んだ気持ちが急降下した今、気分になれない。正面に立つ彼の顔を見ることが出来ず、頭を下げた。

「…ごめんなさい」
「……俺とは打つ気にならんか」

 残念そうな声が絞り出すようにして降ってくる。
 …そういうんじゃないけど、気分が湧かない。
 笑いたいのに、顔がこわばってしまう。そんな顔で一緒にいたいんじゃない。
 望んでもいないデートを、無理やりして欲しいワケじゃない…
 けれど本物かどうか見破ることも出来ず、舞い上がったのは自分だ。そう思うと情けなくなって、ここから逃げ出し消えてしまいたくなる。気付くと足が勝手に公園の出口へ走り出していた。

「ちょっ……!」

 切羽詰まった声がして、追って来た仁王に後ろから止めるように腕を取られ、その勢いのまま抱きしめられる。

「…急に飛び出すな。危ないじゃろが」

 目の前は道路、車が往来している。それも視界に映らないほどに頭が混乱しているらしい。
 仁王は萌を咄嗟に守ってくれていた。それなのに、彼の力が緩んだ瞬間腕をすり抜け、萌は再び走り出しその場から逃げ去っていた。



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