第12章 偽りのデート
県大会翌日の日曜日、遅く目を覚ました仁王は、柳生からの着信に気付きすぐ折り返した。
「ご褒美、用意しておきましたよ」
開口一番、声を弾ませた彼の台詞に引っ掛かりを感じ、記憶を巡らす。
「…は?お前、盗み聞きしとったんか」
柳生は人聞きが悪い、と否定しつつ先を続けた。
「聞こえてきてたんです。なので、彼女にはデートして欲しいと伝えました」
「おい待て、それ…俺が誘ったことになっちょるんか?」
起き抜けからとんでもない話を聞かされ、頭が混乱する。
「以前に入れ替わって誘ってくれと言ってたじゃないですか」
「確かに言ったが…冗談半分じゃ」
仁王としてはそんな事も言った気がする程度の、いつもの、ほんの冗談。柳生は真に受けていたようだ。
「仁王くんの支度が間に合わないなら私が行きます。良きところで入れ替わりましょう」
「はあ?そんなの、のる訳がなかろ」
「そうですか?良い作戦だと思ったんですが…」
柳生は仁王が断るとは想定していなかった様子で落胆した。
「なんでこんな事…冷静なお前らしくないな」
「別に良いじゃないですか。ちゃんとデートをすれば、騙したことにもなりませんし」
「にしても、俺にひと言あっても」
「ミーティングの後は仁王くんいなかったでしょう。夢野さんが帰られてしまうし、時間がなくて」
「俺は真田に呼ばれてたんじゃ、ミクスドのことで」
軽い言い争いを終えて、仁王は全てが噛み合っていないと悟った。頭が痛い…
「どうする気です?」
「…夢野には全部話す。お前は来なくていい」
頭を押さえて通話を切る。時計を見ればもう約束の時間になる。遅れることにはなりそうだが、すぐ出掛ける支度をした。
いきなり過ぎる…心の準備が出来とらん。
それに、別にデートしても良いって…本当にそれでええんじゃろか?その前に、誘ったのが俺じゃないと知って幻滅されるかもしれん…
約束のデート当日、昨晩は緊張し過ぎてよく眠れなかった。それでも嬉しさは抑えきれず、萌は駅付近の待ち合わせ場所へ足取りも軽く向かって行った。