第11章 県大会
え?
やや声を潜ませ降ってきた言葉に、びっくりして柳生を見上げる。すると彼は苦笑しながら謝った。
「すみません、おかしな事を口走りました」
もしかして…柳生にばれているのか?仁王に好意を寄せていることを。
「大丈夫です。仁王くんにも、誰にも言いません」
戸惑う萌に顔を向けた柳生は、上品な動作で口元に片手を添えて内緒話のように告げる。
再び振り向いた仁王がその場面を見て目を細めた。
「…お前さん達、ちぃーと仲良すぎやせんか?」
笑顔を作ってはいるが、肝心の目が笑っていない。もっとも、本気なのかからかっているだけなのかは分からない。
その真意はどこか、本音を知りたい。
柳生が苦笑いしながら傍を離れるその横で、萌はそんな気持ちが溢れてくるのを感じた。
そして県大会当日を迎える。どの試合も危なげなく勝ち上がり、改めて立海の実力を思い知った。
ほぼ仁王先輩の活躍で何とかなったようなものだな…
大会後、立海メンバーと揃ってバス乗り場に向かいながら感謝を伝える。
「ありがとうございました。先輩…さすがでした」
「見直したかのう?」
自分の無力さに打ちひしがれていた萌に、仁王は余裕の態度で応じる。
「たまにはご褒美が欲しい…なんてな」
ニヤリと笑う彼の姿に、思わずびくっとして問い返す。
「な、何が欲しいんですか?」
「俺の欲しいもの、お前に解るかのう?」
少し真剣な表情になってそう尋ねられ、つい考え込んでしまった。
…解らない。解るわけない。だって先輩はいつも本音を言ってくれない。
「奢ってほしい…とか?」
「あー…ちょいと違うというか、難しいのう」
萌の悩む姿を見かねて仁王が口を開くが、途中で言い淀み濁されてしまう。結局最後まで答えてくれなかった。
バスが到着し、ようやく学校へ戻ってくる。その後簡単なミーティングがあり解散となった。
着替えを済ませて帰ろうとすると、待ち構えていたのかスッと現れた仁王に声を掛けられる。