第11章 県大会
短期合宿明けの月曜は休みとなったが、週末には県大会が控えていて仕上げのための練習が続いた。
合宿での出来事が頭にあり、この週は何となく照れ臭くて萌はずっと仁王とあまり喋れずにいた。それは彼も同じなようで、こちらの顔色を窺っている様子が見てとれた。それでもお互い気まずさはなく、むず痒い空気のなか練習をこなした。
大会前日の部活は早めに切り上げられた。仁王、柳生と共にテニスコートを出て帰路につく。
「仁王くんとはだいぶ打ち解けたようですね」
紳士の気遣いを発揮し、微笑みを浮かべて柳生が話題を振ってくる。
「最初は怖がっているように見えましたから」
思えば、確かに最初は怖かった。
威圧感…なのだろうか、醸し出す雰囲気に気圧される感じがある。それはきっと、何を考えてるか分からない不安感なのかもしれない。
決して愛想が良い喋り方ではないし、笑顔のイメージはない。不敵な笑みのほうが似合うタイプだ。隙がない印象と共に、どうしても怖さを与えてくる。
「取って食ったりしないぜよ」
一人先を歩いていた仁王が振り向いて告げる。怖がる必要などないと言いたいのか。しかし続く言葉で身の潔白を自ら台無しにした。
「そうして欲しいんなら、話は別じゃが」
茶目っ気たっぷりに萌を見る瞳は、完全にいたずらっ子そのものだ。
すかさず柳生に口を挟まれる。
「仁王くん!女性に何てことを言うんですか。全くあなたは…」
「…ピヨ」
怒られてる…ほんとこの二人は対照的ね。
「柳生がいると、調子が狂うのう。なあ夢野?」
「そんな事はないでしょう。今のは明らかに仁王くんがおかしいです」
…ふふ、仲良しだな。
困ったような素振りで適当な言葉を返す仁王と、自分の正義を主張する柳生。
聞き役に回りながら、萌は先を歩く仁王へちらりと視線を送る。
自由でマイペースで、人と違う目線で違う事を探してる。純粋に楽しんで、突き詰めようとしている。それをテニスに取り入れ、活かすために。
不思議な人だし、だからこそ魅力を感じた。
「それでも、あなたの目は仁王くんを追いかけるんですね」