第10章 短期合宿
「二人ともたるんどる!」
仮病だとしたら真田は気分を害するはずだ。やはり、怒りを声に滲ませている。
「おい、真田。夢野にも罰をやる気か?」
彼の言い回しに仁王がいち早く反応した。
「俺が休憩を頼んだんじゃ、こいつは騙されただけ。罰は俺だけでええじゃろが」
萌を巻き込まないようにか、珍しく直球で真田に食ってかかる。少し考えた後真田は渋々了承した。
「お前がそう言うのなら、それで良かろう」
罰として、腕立て腹筋背筋二人分の各二百回を言い渡されてしまった仁王。
庇ってくれたんだ…
不憫に思った萌は、何とか真田を説得して仁王への差し入れの許可をもらい、トレーニングルームへ向かった。
そっと様子を覗くと、意外にもサボらずに回数をこなしていたようで、へろへろになった状態で大の字に寝そべっている仁王がいた。
「…夢野か」
気配に気付いた彼が首を動かしてこちらを確認する。
「余計に腹が減ってしまってのう、このザマじゃよ」
「だと思って、差し入れ持って来ました。真田副部長も了承済みです、堂々と食べてください」
罰消化のため、夕食を早々に切り上げた彼に気付いていた萌。持参したおにぎりの差し入れを渡す。
「夢野が天使に見えるのう…」
むくりと起き上がり、感動したように仁王はぽつりと呟いた。
「もう…またそんな冗談ばっかり」
「いや、ホント…抱きしめたいくらい」
本気なのか冗談なのか分からない目でじっと見つめられたと思うと、どきっとする台詞がさらりと発せられ動揺が増してしまう。
何だか最近、直接的な言い回しが増えた気がする。冗談だとしてもその度に心拍数が乱される。
「…顔、赤いぜよ」
恥ずかしさで視線を外しその場で硬直する萌に、仁王はニヤニヤしながら指摘してくる。
「も…もう!見ないで」
「可愛い反応じゃのう」
耐えきれずに萌が慌て出すと、彼は声をたてて笑い始めるのだった。