第9章 買い出し騒動
「…仁王先輩に?」
えっ…
突然仁王の名前が出てきてどきりと心臓がびくつく。しかし大して深く考えた答えではなさそうで、赤也はすぐに話を元に戻した。
「…まあ、けどどっちにしろ一回じゃ持ってけなさそーだな」
このままだと持ちきれずに往復しなくてはならなくなりそうだ。誰か助けを呼んだほうがいい。
「ちょい待ってろ、連絡してみる」
店先から離れ赤也が電話をしている最中に、試しにその場に置かれた袋を持ってみるがやはり重たい。
学校に着くまで持ちこたえられるかな…
そこへ持ち上げた袋を横からひょいっと奪われ、急に肩ががくんと軽くなった。
「貸してみんしゃい」
と同時に後ろから声がして振り返ると、よく見知った顔ぶれが並んでいた。
「仁王先輩…!柳生先輩も、どうしたんですか?」
「買い出しに行ってると聞いたんでな。助っ人登場よ」
「二人ではらちがあかないでしょう。お手伝いします」
どこからか情報を聞いてきたらしく、仁王と柳生が揃って助けに駆けつけてくれた。
「やりぃ、よかったあ!助かりますよー先輩達!」
彼らに気付き通話を終わらせた赤也も、心底嬉しそうな顔で素直に喜んでいる。とにかく助かった。四人で袋を分担して運ぶ。
「赤也、ひとつ貸しじゃのう」
学校へと戻る途中、仁王が悪戯気な調子で赤也に呼び掛ける。
「ええっ、仁王先輩ひどいっスよ、そもそもオレ一人じゃハナから無理ゲーだったし」
仁王に貸しを作りたくないのか、赤也は必死に抗議している。
「違う違う。俺やのうて夢野に、じゃ」
「えっ」
突然名前が上がり、聞き手にまわっていた萌は不意をつかれ驚いた。
「私達はともかく、夢野さんにはきちんとお礼を言ってあげてくださいね」
柳生までその流れに乗っかり赤也を戒める。二人は、萌が彼に無理矢理付き合わされたと思っているのかもしれない。
そんな…大して役に立ててないのに。
先輩達に促されてしまい、少し気恥ずかしそうに赤也がぼそっと呟いた。
「…ホント、助かった。サンキューな」
一時はどうなるかと思った買い出しだったが、無事に終えられて良かったし何だかんだで楽しかった。
もうすぐ始まる合宿へ向けて、萌は期待に胸を弾ませるのだった。