第9章 買い出し騒動
ある日、休み時間にクラスメートに呼ばれ教室の戸口へ赴くと、赤也が訪ねて来ていた。
「あ、切原くん」
「おう。ちょいと頼みがあんだけどよ」
前置きもそこそこに彼は神妙な顔つきで切り出す。
「合宿の買い出し命じられてて、そんでお前にも手伝ってもらえねーかなあって」
今週末はテニス部の短期合宿が予定されている。そのための準備なのだろう。
赤也とは同学年だが、今まで部活でもあまり話した事はなく特別親しい訳ではなかった。だがテニス部絡みの頼みとあれば協力すべきだし、一人で買い出しは可哀想だ。
「うん。手伝う」
「まじで!?よっしゃあ!じゃあ放課後にまた」
萌の承諾にぱっと表情が明るくなり、大きなリアクションで喜ぶ赤也。この様子だと、半分は断られることを覚悟していたのかもしれない。たとえ喋ったことがなくても、そんな薄情なことはしないけれど。
放課後になり、赤也と待ち合わせて早速学校近くのスーパーへ買い物に向かった。事前に渡されていたメモを見ながら目当ての売場へ赤也と共に進む。
「…お、きたきた!肉コーナー」
順番に店内を回ってついに精肉売場へ到着する。
「…お肉、こんなに買うの?一泊二日でしょ?」
「ん~副部長からのお達しだからな~、オレも食いたいしっ」
赤也は迷うことなくがしがし肉をカートに入れていく。驚いた萌がたしなめるが、彼の手はひるみもしない。
普段よりも沢山練習するだろうから、いいのかな…
大量の肉と、油や調味料、申し訳程度の野菜、あとはお菓子も買い込んだ。これだけでも凄い量だが、飲み物類がやはり非常に重くて厄介だ。
気楽に考えていた。こんな事ならせめてもう一人男子を呼ぶべきだった。
とりあえず店の出口まで運んで来たが、重い物ばかり入った袋を一手に引き受けようとする赤也に呼び掛けた。
「切原くん、それ絶対重たいから…待って、あたしも持つ」
「いいって。試合前にあんたの腕壊したらオレが怒られるし」
さすがに男子のプライドがあるのか、適当な理由をつけてこちらの負担を軽くしてくれる。
…あたしの腕より、切原くんの腕のほうが重要だと思う。
そう思い、彼の優しさを感じつつも否定して返した。
「それはないでしょ。誰にそんなこと怒られるの」