第8章 休日練習
「…何じゃ、不満か?」
だが視線に気付いた仁王がちらりとこちらを向き、無愛想に短く返す。彼の表情の小さな変化も見逃すまいと、目を離さずゆっくり首を横に振った。
「なら、もうこっちを見つめるのは止めんしゃい」
どうにも、見つめられ探られるのが不服なようだが一応聞いてみる。
「どうしてですか?」
「いいから」
仁王は片手を軽く顔にあてがって隠すような仕草をした。
もしかして…照れてるの?
解りにくいが恥ずかしがっているらしい。なおも目が離せずにいると、急に彼の手が伸びてきて、萌の頭をくるりと強制的に前に向き直されてしまった。
「わっ」
驚いたのも束の間、仁王はなんと下ろした手をそのまま伸ばし、大人しく縮こまっていた萌の片手を掴んできた。
…えっ…!
テーブルの下、向かいの席の二人からは見えない空間。様子を探ってきたお返しとばかりにぎゅっと握られる。
…不意打ち…しかもみんなのいる所で、わざと…っ
動揺を隠せず真っ赤になる萌を見て、仁王は満足そうにニヤリとしている。
繋いだ手が熱くて、何も考えられない。その後は頭が働かずに終始ぼうっとしたまま時を過ごした。
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