第8章 休日練習
「うまそうだろい?ちょっと食べてみるか?」
萌がワッフルを凝視しているのに気付き、丸井が話し掛けてきた。
「ほら。口、開けろぃ」
アイスの乗った部分を切り分け、萌の正面にスプーンを差し出す。彼が余りにもあっけらかんと促してくるので、つい口を開けてしまった。
「ん…おいひい」
「だろぃ?」
ワッフルのサクふわ食感とアイスの冷たさがマッチしていて美味しい。口をもごもごさせて感想を述べると丸井は無邪気に笑った。
「…ブン太、こいつに餌付けは禁止じゃ」
そのやり取りを見て、萌の隣に座る仁王が少し苛立たしげに口を挟んでくる。
「甘い物ばかりだと太るしのう。試合で走れなくなったら困るんでな」
最もらしい事を並べているが、声に苛立ちが混じっている様子から察するに、理由は別のところにありそうだ。
もしかして…怒ってる?嫉妬?まさか…だよね。
いつもクールなせいで感情の起伏が読み取りづらいが、不機嫌かもしれない。
「えー、ひと口くらいじゃ太んないぜ?なあ?」
丸井は何も気にせず、隣にいる柳生に同意を求めている。柳生は角が立たないようこの場を取り纏めた。
「ええ、そうですね。ですが仁王くんは、そのひと口が今後も癖になってしまう事を懸念しているのでしょう」
「んー回数食ってもすぐ消費すると思うけど…まあ、いいや」
「それより丸井くん、早く食べないと溶けてしまいますよ」
「おう!」
柳生が話を逸らしてくれたので、仁王への追及はそこで終わった。
彼の機嫌を損ねた理由を確かめたい。そう思い、萌はばれないよう無言で彼を観察し始める。