第8章 休日練習
萌も寝ていたのだが、柳生は仁王に向けて呆れ気味に息をつく。額を押さえながら仁王がやや鬱陶しそうに呟いた。
「…寝起き直後の説教はこたえる。特にお前の」
「何言ってるんです、見つけたのが私で良かったでしょう。早く戻ってくださいね」
確かに真田に見つかっていたらタダじゃ済まなそうだ。
先にコートへ戻って行く柳生の後ろ姿にため息をつくと、仁王はちらっと萌に視線を投げてきた。気だるげな表情のまま無言で見つめられ、じわじわと恥ずかしくなる。
「せっかく気持ち良く寝てたのにのう…な?」
薄く笑ったと思うと同意を求められ、ぎくっと心臓が跳ねた。
…一緒に寝てたの、ばれてる?
近付いて共に寝ていたことが相手に筒抜けで恥ずかしさが増す。返答に困り萌が固まっていると、仁王はさらにしれっと付け足した。
「…次寝る時は俺にもたれてみんしゃい」
よっ、と立ち上がり彼は先にコートへと向かって行った。残された萌は、みるみるうちに顔がほてっていくのを感じていた。
今のは、ずるい…
去り際にどきっとさせる台詞を残していく彼に、心をかき乱される。もっと近付きたいという想いが募ってしまう。
その後の練習は無事に終わり、帰りがけにファミレスに寄ろうという話が持ち上がった。萌も誘われ、レギュラー陣にお供することになった。
皆で出掛けると、紅一点の萌のために大抵仁王の隣の席を空けてくれる。ダブルスの相方である仁王となら会話がしやすいだろうと、周りが気を遣ってくれているようだ。
「あーオレそっちの席がよかった」
「赤也!ちゃんと前を向いて座らんか」
真田と同じテーブル席に着いた赤也が、身を乗り出してこちらの席の様子を振り返り、早速彼に怒られている。
比較的平和なこちらのテーブルでは、丸井の注文したスイーツが到着していた。いかにも女子が好きそうなフルーツとバニラアイスを乗せたワッフルだ。彼の女子力の高さには毎度感心させられる。