第8章 休日練習
休日練習日、萌は男子部員達と同様に部活に参加していた。まだまだ試合は続く。次の県大会へ向けて一層熱の入った練習が繰り広げられていた。
グループ別の練習が一区切りし休憩に入った萌は、先程から仁王の姿が見当たらないことに気付いた。今は別の班が練習中だ。順番が来るまで彼を探してみることにした。
部室付近にはいなかった。水飲み場のほうをあたってみるがここにもいない。
テニスコートの敷地を出て、さらに奥の木々の並ぶ一画に足を運んでみる。緑の葉が陽の光を受けてキラキラと輝く。その木の下に座り込んでいる仁王をようやく発見した。
近付いてよく見てみると、彼は木の幹にもたれ片足を立てた体勢で目をつぶっている。珍しく無防備な状態だ。
うそ…寝ちゃってる?
音を立てないようそろりと近寄り、慎重にかがんで隣に座り込んだ。ここぞとばかりに様子を観察する。
寝てると可愛い…起きてる時はちょっと怖いのに。
あどけない自然な表情に何だかドキドキしてしまう。熟睡しているのか、すやすやとした寝息すら聞こえてきた。
…全然起きない。疲れてるのかな?
じっと座っていると、日頃の練習の疲れもあるせいか萌にも睡魔が襲ってくる。
先輩の気持ち良さそうな寝顔見てたら、こっちまで眠くなってきた…
膝を抱えた腕に顎を乗せて、少しだけ、と目をつぶる。吹き抜ける爽やかな風が肌に心地良かった。
「ああ、夢野さん。こんな所で何してるんです……おや」
「ん…」
呼び掛ける声がして目が覚める。
顔を上げると、少し驚いた様子の柳生がこちらを見下ろして佇んでいた。と同時に、隣の仁王がもぞもぞと動く気配がした。起きてしまったようだ。そこで距離の近さをはっと思い出し、慌てて彼から離れる。
「…柳生か」
「全く…どこで油売ってるのかと思えば居眠りだなんて」