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illusionary resident

第7章 地区予選


 あっという間に地区予選当日がやって来た。ミクスド初の公式戦に緊張が押し寄せるが、のまれないように精一杯意気込んで出発する。
 立海が序盤で負ける訳にはいかない、という変なプレッシャーがずっとのし掛かっていた。体裁や見栄もあったかもしれない。だがそれ以上に、立海のみんなに、ペアである仁王に申し訳が立たない気がしていた。そんな潰れそうになる心を奮い立たせ、戦いの場へ向かっていく。
 いざ試合が始まると、拍子抜けするくらいスイスイ勝ち上がっていった。立海の練習メニューをこなしてきたからか、自分自身も強くなっている気がする。そのまま決勝戦も突破し、地区予選を制覇した。

「…勝てた……!」

 立海の面々からしたら当たり前なのかもしれないが、自分にとっては違う。凄いことだ。試合直後、まだ乱れた息のままどこか夢を見ている気分で無意識に呟いていた。
 対戦相手と握手を交わす。ベンチへ戻ろうとすると、隣にいた仁王が近付いてきて萌の頭にポンと手を置いた。

「よく頑張ったのう」

 その優しい手つきに、緊張と意気込みで張りつめっぱなしだった気がいっきに緩み、解放感でじんわり涙が滲み出てくる。

「…お、おい、なんで泣くんじゃ。勝ったんだから喜ぶところぜよ」

 萌の顔を覗き込んでいた仁王は涙に気付き、ぎょっとした表情で驚いて慌て始めた。いつも余裕の顔つきで飄々とした態度を崩さない彼のイメージからすると、その反応は新鮮で可愛く感じられた。

「仁王が女の子泣かせてんぞ」
「仁王くん。いけませんよ、なぐさめて差し上げなさい」

 出迎える仲間達から次々とからかいの言葉が投げ掛けられる。彼らの冷やかしにため息をつき、困ったような顔をして仁王は続けた。

「ほら…甘いモン奢っちゃるから、泣き止んでくれんかの」

 周りの皆の冗談を何故か真に受け、少しおろおろとしながらも優しく語り掛けてくる。微笑ましさすらあるその様子に、くすぐったい感覚に包まれる。萌は共に試合を戦ってくれた彼に感謝しながら、涙を拭って彼の優しさを受け止めるのだった。

















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