第6章 データ収集
「それは誰に対しての数字かのう?」
冗談なのか本気なのか、腹の読めない表情でニヤリとする仁王に柳は憮然として返している。
「…お前のデータがそんなに集まる訳ないだろう。取らせてくれないくせに、よく言う」
会話から察するに、彼は仁王のデータ収集も本来の目的に含んでいたのかもしれない。しかも仁王はそれを解っていて、素知らぬ風に振る舞っていたようだ。
ほんと、癖のある人ばかりだな…
柳は萌の分析もきちんとしてくれて、試合に関するアドバイスをもらう。その際胸中の不安な点を漏らすと。
「息を合わせようとしても、指示通りに打てるか不安で…」
「その辺の心配はいらない。ミクスドは団体戦に比べれば質が落ちる。多少の失敗は仁王がカバー出来る」
心配いらない、か…
全く彼の言う通りなのだが、あまりに現実的に分析され自分など必要ない気がして落ち込んだ。
その様子を端で見ていた仁王が横を向き、独りごちる。
「夢のない言い方じゃのう…」
仁王はミクスドをどう思っているのか、部活終了後に彼を捕まえて念のため確認する。
「先輩はミクスド…つまらないですか?」
さっきは楽しそうではあったが、相手が柳達だったからかもしれない。
全国三連覇を目指している立海男子テニス部だ。レベルが違い過ぎてミクスドに手ごたえがなかったり、あるいは団体戦に集中出来ずに負担になったりしていないのか…
「…ああ、いや、そんなことはない。試合が増える分、楽しみも増えちょる」
仁王は顎に手をやり少し考えて、言葉を選ぶように話す。
「俺は俺なりにお前さんとのテニスを楽しんどるよ。気にするな」
…気を遣ってくれたのかな。飄々としていて解らないんだもの。
優しい返答は嬉しいが、本音が伝わっている気がしない。
本当はどう思っているのか…知りたい。
「先輩が楽しいと思えることって何ですか?」
「お。今日はどうした、質問責めじゃのう」
仁王の本音を聞くためにはどうしたらいいだろう。何かヒントにならないか、と思いついた事を尋ねてみる。
「まあ、今のところはテニスと言っておこうかの」
「今のところ?」
「簡単には教えん。秘密じゃよ」