第6章 データ収集
地区予選がだんだんと差し迫るある日の部活でのこと。
「夢野、調子はどうだ?」
立海三強のひとり、柳に声を掛けられた。
「少し見学させてもらっていいか?集めたデータを基に、大会での動き方のアドバイスが出来るかもしれない」
「は…はい、よろしくお願いします」
柳からアドバイスをもらえるなんて恐れ多く、緊張気味に返事をする。
練習では力を発揮出来るようにとにかく懸命に動いた。その間ずっと、柳はばっちり萌に注目している。少しやりづらかったが、なるべく動きが固くならないよう努めた。
その様子を見た仁王が萌の傍までやって来て告げてくる。
「素直に聞き入れるのもいいが、少しは気をつけんしゃい」
「えっ…」
どういう意味かと小首を傾げると、彼はおもむろに上体を屈めて顔を近付け耳打ちしてきた。かなり接近されてどきっと心臓が跳ねる。
「うちの参謀は怖いからのう」
助言をくれたようだが、正直距離の近さに焦ってあまり頭に入ってこなかった。まだ胸の鼓動が早いままだ。
メニューの最後には練習試合が待っていて、仁王とペアを組み試合に臨む。
相手コートにやって来たのはなんと柳だった。ジャッカルとの異色の組み合わせでの対戦となる。その威圧感ににわかに緊張が増してきた。しかし、いつも相手が強いと嘆いてばかりもいられない。
「…先輩、協力したいので指示をください」
萌の真剣さが伝わったのか、仁王はふざけずにこちらと向き合った。
「騙し打ちの指示でいいんか?」
「それが得意だって言うなら、もちろんです」
勝つための選択、どんな手を使っても勝ちにいく時のための練習だ。その答えに満足したように彼はフッと笑った。
ペア同士の動きを合わせ協力して挑んでいく。試合中、仁王が終始楽しそうにプレーしていたのが萌の印象に残った。
練習後、コートから出て休憩を取る仁王と柳の会話が聞こえてきた。
「どうじゃった?」
「8割といったところか、まあまあだ」
柳は試合をしながらデータを取っていたらしい。とても器用だと感心する。