第5章 フルーツパフェ
丸井の呼び掛けを聞こえないとばかりに無視して仁王はすましている。ついには残りを全部食べてしまった。
「おい…大丈夫か?仁王」
「先輩…」
店を出た後、具合が悪そうな表情の仁王をジャッカルと共に気遣う。
嫌いなのだと思っていたパフェを食べてくれた、その行為は驚きだし不可解だった。店に配慮したにしても、仁王が無理せずとも丸井が余裕で片付けられたはずなのだ。
「…女子はこんな甘ったるいモンを食うんか…」
思案していると、隣を歩く仁王が口元を押さえながら力無く呟く。
「…いつも甘ったるい気分な訳じゃありませんけど」
「ほう?」
「時には辛いものも食べたくなります」
萌の返答に、彼はやや前屈みだった上体を起こした。辛いものを想像して少し気が晴れたのだろうか。
「たまには刺激を求める、という訳じゃな?それはいい心掛けだのう」
心掛けというか、気分の問題なんだけど…
「そっちなら期待に応えられそうじゃき」
そう言って仁王はこちらに視線を寄越し、挑戦的な目で薄く笑みを浮かべた。
期待って…何の話なの?辛いものも食べたくなるって言っただけなんだけど…
会話が噛み合っていない気がするが、鋭い目線に見つめられ何だかドキドキしてしまった。不敵な笑みが似合い過ぎて胸の鼓動が高まる。
謎な部分が多くて相変わらず心が読めない仁王。だからこそ、彼のことをもっと知りたいという気持ちが萌の胸に湧いてくるのだった。
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