第4章 イリュージョン
「夢野さんと会ったかどうか、ですか?部活が始まる前に?」
変な質問だな、と自分で思うけれど仕方がない。だが柳生は至極真面目に答えてくれた。
「部活前は、私はあなたをお見かけしていませんね」
腕を組み顎に指を当て考え込む仕草をしていた彼は、すぐにはっとした表情を見せた。
「…解りましたよ、犯人が」
そしてコートを見回し仁王の姿を発見すると、足早に彼に向かって行く。
「また私になりすまして遊んでいましたね、仁王くん!」
「おいおい、突然何の冗談じゃ」
「冗談ではありません。校内でそれをやると実害が出るのでやめてください、と言ったじゃないですか」
突然柳生に責められ、グループ練習の順番を待っていた仁王がぎょっとして振り返っている。
これはどういう事なのか。萌も柳生を追いかけて、事情を詳しく聞かせてもらう。
「な、何の話ですか」
「仁王くんが私の姿になりすましていたんですよ」
言い逃れも出来そうにない程柳生がきっぱりと言い放つと、仁王は観念したようにバレたか、と小さく呟く。
「え、どうやってそんな事…」
「コツか?そうじゃのう、まずはカツラを被って…」
「仁王くん!」
ふざけ半分に返してくる仁王に柳生は再び叱責の声を上げる。それを軽くあしらって仁王は萌のほうを向き、内緒話のように手を添えて続きを説明してきた。
「相手の事をよく知ることじゃの。言動や細かい仕草、癖なんかを観察するんじゃ」
相手をよく知ったうえで、実際に体現したってこと…?嘘みたい…
知ると言っても、学校にいる限られた時間だと観察力がないと無理よね…って、今はそうじゃなくて…
「なんでそんな事するんですか?」
「面白いから、じゃのう」
…やっぱりそういう理由か…
あっさりと白状する仁王に萌はため息をついた。柳生も横で似たような反応をしている。
「とにかく、私で遊ばないでください」
「遊んでるだけじゃない、これも戦術のうちじゃ」