第4章 イリュージョン
そんな事がテニスに役立つのだろうか…?まあ、考えたところで彼の発想には追いつけないだろう。
「おまんらも騒いでると真田に怒られるき、そろそろ戻りんしゃい」
ラケットを肩にポンと置き、仁王が踵を返そうとしていると。
「おい、そこ!口じゃなく体を動かせ!罰として練習後にコート外周を50周しろ!」
案の定真田に見つかり恐ろしい剣幕で注意を受け、おまけに練習中の私語の罰を言い渡されてしまった。
「お前もだ、仁王!」
背中を向けていた仁王もしっかりと数のうちに入れられている。しかし彼の口元は、最初からそのつもりだったかのように薄く笑っていた。
部活が終わり次々に皆が帰るなか、萌達三人は残ってランニングの準備を始める。
「全く…とんだ災難です」
柳生がはあ、と重たいため息をつく。
「ごめんなさい、あたしが練習中にヘンな事聞いたから…」
「いえ、これは仁王くんの行いが招いた事ですよ。あなたは被害者でしょう」
軽率だった自分を反省し謝るが、柳生はあくまでも仁王のせいだと考えているようだ。
「まあまあ。つべこべ言わず走るとするかのう」
「それ、仁王くんが言うことではないです」
走り出す仁王に萌達も続く。
その光景を、コートの脇を通って行く他の部員達が興味深そうに眺めていた。
「仁王が走らされているのか。珍しいな」
「いつもなら上手く逃げるんだけどな。走りたかったんじゃねえ?」
柳の指摘に丸井が適当な感想を漏らす。
「たまには先輩達も走ったほうがいいっス!いっつもオレばっかだし」
普段から真田によく怒られている赤也がここぞとばかりに主張している。
「柳さんもどうっスか?」
「俺は遠慮しておこう」
「えー、見てみたいなァ柳さんが走らされてるとこー」
口々に言いながら彼らはコートを離れ帰路についた。