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魔人さんと家飲みしたい

第1章 こんにちは五木荘


荷ほどきも翌日の昼には終わり、棗は仕事道具を並べて頭を捻っていた。
5日後には新しい職場で働くことになる。一足遅れて最後の段ボールが届き、その中身が仕事道具だった。
手術看護師として働くが、服は毎日支給品を着るため、ナース服は3着くらいあれば良いらしい。
今まで使っていた道具も、今度は色を統一して買い揃えようかと処分を検討している。
とはいえ、問題はそこではない。見覚えのない謎の黒々とした球が、中に紛れていた。

(まぁ、書類とかは実家に置いて、急ぎのものだけ適当に詰めた気もするけど…それでもこれは何…。)

しかもこの球の出現も不可解だ。宅配業者にサインをして箱を受け取った後、どこからともなくコロンと床に転がり出てきた。
段ボールの底は十字に組んだだけでテープを貼らなかったためどこかで境目に引っ掛かったのか。

もしかしたら前の職場の備品かもしれない。少し置いといてなにも言われなければ捨ててしまおう、そう結論を出しアクセサリートレイに転がした。
その瞬間、眩しい光に包まれ強く目を瞑ると、耳元でセミの羽音に似た電子音が数秒続いた。
音が弱まると同時に光が柔らかくなり、完全に聞こえなくなったところでゆっくり目を開けると、景色は一変していた。

「なっ…なにこれ…っ!!」

自室の窓はタイルが散りばめられた漆喰の横穴に代わり、そこから望む景色は青空と植物の緑、激しい日差しに焼かれた砂の白が鮮やかなコントラストをなしている。
「どこかの…オアシス?」
部屋で一人呟いたつもりが、予想だにない返事が背中から聞こえた。
「そうだ。異国の君、我がオアシスで新たな妻として迎えよう。」
不意に話しかけられた驚嘆を飲み込み、身を固くしてゆっくり振り返る。
自分の部屋が倍以上の奥行きまで広がり、インテリアまで大理石に黄金のしつらえなどまさにアラジンの世界のようだ。
少し離れた場所の孔雀の羽を模したような椅子にイケメンの中東系男性が座しており、男を中心にこれまた同じ系統の女性が数人、思い思いな姿で寄り添っている。

「え、いや何言ってんです…。」

クラクラするほど場違いな雰囲気に呑まれ、精一杯のリアクションだった。
まさにアンビリーバボーなこの体験を皮切りに、癒しと疲労の日常が始まるとは(夢とは思えど)予想もしていなかった。
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