第2章 第一印象は大事です
「あ、ありがとうございます。安心したら気が抜けてしまって・・・。」
差し出された親切にそのまま甘え手を重ねた。
力の入らなかった足が不思議に軽く、すんなりと立つことができた。
(そうか、実は鍵が開いていて幻覚のすきまから入ってきたせいで見間違えただけなのかも)
手元をぼんやりと見ながら辻褄の合わない部分に理由をあてがう。
「・・・なかなか理解し難いと思いますが、すこし説明をさせてもらっても?」
「あっごめんなさい。・・・え?」
彼からの声かけに重ねていた手を急いで離し、”理解し難い説明”を聞き返してしまった。
----------------------
お茶を飲みながら隣人の部屋で過ごす悪魔の話を聞き、自身に起こったハプニングもその悪魔の(毎度お馴染みうっかり)ミスで紛れ込んだ”誘惑ホログラム”の仕業であったことがわかった。
「・・・・なるほど、それで・・・あなたはランプの魔人さん、ですか。あのア●ジンで有名な?」
「こちらで有名かはわかりませんが、魔人は魔界でも複数います。魔道具の一つですから。」
「そう、ですか・・・。何にせよ身に起きた珍現象に納得ができて、よかったです。ありがとうございます。」
棗は眉を下げはにかんだ笑顔で礼を述べた。
正直なんのファンタジーもなかった生活には情報量が多すぎる。
ホログラムといえど現実味が強く、なにより相手が目を見て誘惑してきたのだ。説明がついても理解するには時間がかかりそうだ。
そんな棗の動揺を察したのか、そろそろ帰ろうと席を立つ魔人が最後に声をかけた。
「・・・悪魔は、人を誘惑させようと必死です。ただ、全てが成功するわけではありません。むしろマスターは、隣に住んでいる悪魔は全て失敗しています。」
だから安心してほしい・・・、そう伝える魔人の表情は苦虫を潰したような、心の底から残念である様子を呈していた。
その姿を見て、常識を逸する存在である彼らが身近なように思え、自然と笑みが溢れる。
「ふふっ、わかりました。魔人のあなたも、なかなか大変なんですね。」
「・・・それでは、失礼します。」
笑ったことに戸惑ったのか、一瞬こちらを見た後に軽く咳払いをし、表情を取り直した。軽くお辞儀をする姿はまさに紳士だ。
今度は扉を開けて出ていく魔人の背中に呼びかける。
「えぇ、次は一緒にお酒でも。」
