第1章 こんにちは五木荘
-ヒョウタの部屋-
棗が挨拶を済ませて部屋に戻った後、ヒョウタは繕った笑顔を溜息と共に崩した。首筋にはベットリと冷や汗が張り付き、緊張感の余韻を残している。
「ふぃーうまくごまかしましたね」
「ほんっとに!焦らせるなよもう!とにかく一度しまったソレはもう出すな!!」
人の気配が去り、押入れからメムメムとランプの魔人、そして魔人の肩に乗る使い魔が顔を出す。
さらにメムメムの手の中には不気味な黒い球が握られており異様なモヤを発生させている。どうやら魔道具の一つらしい。
「大学生家庭教師風、悪魔ホログラムなんて出すから!無駄に意識しちゃったじゃないか!」
「ソレはあたしのせいじゃなくてお前がヤラシイだけですよね」
棗が挨拶に訪れる前に、毎度お馴染みのハプニングがあったようだ。
会話に出てきた「大学生」という単語も棗が想像するような高校生らしい理由ではなかったようだ。
「それにあの女に悪魔を重ねるなんて節操ないですねぇ。ちょっとやつれてて全く相手にならないじゃないですか」
「成人女性にも食い込めないお前が言うなよ。それに引っ越し当日で疲れるに決まってるだろ。」
「足は小僧好みと見ましたが…違いましたか。」
「そ、それは関係ないだろ!?そんなとこ初対面で見ないよ!!ていうかどうやって見てたの!?」
「「…で、何を貰ったんです」」
早く見せろと迫る魔界の住人たちに、まったく…と再度ため息をつき、受け取った紙袋を取り出した。
無地の包みに「ご挨拶」とカジュアルな熨斗が巻かれ、中身はインスタントのココアやラテ、お菓子のセットだった。あっさりとした包装に、好みに合った中身のチョイスが棗の人柄を表しているようだ。
「…俺がココア好きってバレてるのかな?」
「フフンなかなか良いですねぇ。嫌いじゃないですよ。」
「若い男子といえば凝った紅茶やコーヒーよりもインスタントを選ぶのが定石でしょう。」
さっそく頂きましょうと、魔人は立ち上がりお湯を沸かし始めた。
(インスタントとはいえ、いつものココアではない。香り高い…)
「…なかなか趣味の良い。妙な人間ではなさそうだ…。」
「あっ!メムメムお前また!」
カップに粉を開け上機嫌に魔人は呟いたが、メムメムの魔道具を中心にまた一悶着あったため誰も聞いてはいなかった。