第6章 ヴィラン襲来
お母様は片手を口に当てて驚いた後、慈愛に満ちた顔で微笑みながら優しく百ちゃんの頭を撫でた。まぁ百ちゃんが眠ってしまうのも仕方がないことだろう。あんな恐ろしい事件があった後だし、私の帰りを一睡もせずに待っていたのだ。気を張りすぎて疲れてしまうのは当然。
そして私は体勢を整え直すと、私に全体重を預ける百ちゃんを軽々と抱き上げてお母様に向き直す。
『私、百ちゃんを部屋に寝かせてくるね』
「それならじいやをお呼びに…」
『ううん。今日は私にやらせて』
少しの我儘を言う私にお母様は困った顔を見せながらも納得してくれたのか「先に紅茶の準備しておきますからね」と言ってリビングにへと入っていった。
長い長い廊下を暫く歩き、百ちゃんの部屋の前に到着。片手で器用に扉を開け、優しくベットに百ちゃんを寝かせる。そして彼女を起こさないようにゆっくりと扉を閉めて部屋を出た。すると制服のポケットに入っていったスマホがリズムを刻みながら震え始める。震えるスマホの画面の着信元を見ると【麗日お茶子】と表示されていた。
『もしもし』
「言ちゃん!大丈夫?!」
百ちゃんの部屋を離れて震え続けるスマホの着信を取ると、声を裏返らせて第一声に私の安否確認を取るお茶子ちゃんの声が聞こえてきた。
『うん、大丈夫だよ。リカバリーガールに治療してもらって今はとても元気!お茶子ちゃんこそ大丈夫?』
「良かった〜…うん!私も大丈夫!!突然ごめんね。デクくんに連絡取ったら無事自宅に帰ったって聞いて、いても経ってもいられなくなっちゃって…迷惑じゃなかったかな…?」
『全然迷惑じゃないよ。私もお茶子ちゃんの声を聞けて安心した』
「えへへ…そう言われるとなんか照れちゃう。とりあえず無事なのが分かって良かった!じゃあまた学校で会おう!」
『うん。また学校で』
そう言って別れの挨拶を交わして電話を切る。画面が真っ暗になったスマホを胸の前に当てて目を瞑り、今日一日で沢山の人に心配され、無事を喜ばれたその幸せを噛み締める。
(私なんかには勿体ない)
そんな自虐的なことを考えながらも嬉しさと言うものは込み上げてくるもので、つい口角を上げてしまう。そして私は両頬を叩いて顔の緩みを治し、リビングで紅茶を準備して待っているお母様の下に向かって行った。