第21章 林間合宿
ピクシーボブさんの合図でクラス対抗肝試しが始まった。1組目が出発し、時間を置いてまた次のペアが出発して行く。私と緑谷くんは最後のペアだったのでスタートするにはまだ時間がある。次々とスタート地点から歩いて行く皆の背を見送っていると木々の間からひんやりとした冷たい風が流れ、体の熱を奪うかの如くその風が私の体を包んだ。夏と言っても合宿所があるのは山の中で流石に夜は幾らか寒さを感じる。私は寒さを紛らわすように右手で左の二の腕ををさすりながら緑谷くんに声をかける。
『緑谷くん、私少し肌寒いから部屋から上着取ってくるね』
「うん!僕達の番はまだだからゆっくりで大丈夫だよ」
『ありがとう。じゃあ行ってくるね』
緑谷くんからの了承を得ると私は合宿所に駆け足で入って行った。そして合宿所の女子部屋に戻って上着を羽織った後、すぐにクラス対抗肝試しのスタート地点で私を待っている緑谷くんの下に戻る為にまた走り出した。
(何か焦げ臭い……?)
合宿所の玄関に向かっていると焦げ臭い匂いが鼻を掠めた。その匂いに私は一度足を止めて辺りを見回すが異変はなく首を傾げた。
(気のせいかな…)
『とりあえず緑谷くんが待ってるから早く戻らなきゃ…』
異様な匂いに疑問を抱きながらも合宿所の玄関から足を踏み出す。しかしその瞬間。
「それは無理かな」
『誰?!…っ!』
突如真横に現れた何者かに勢いよく首を掴まれ、合宿所の壁に力いっぱい押さえつけられた。
私たちの林間合宿3日目─────
これは後に多くの人を巻き込み。世間を混乱の渦に陥れた大事件の幕開けだった。