第15章 職場体験開始
職場体験当日、慣れない現場に行くこともあって不安と期待を胸に雄英高校1年A組の生徒全員が駅の広場に集合していた。そんな生徒達の手には表面に大きく番号が描かれたスーツケースが大切に握られていた。今は平日の朝8時、学生や会社に通勤する人などで駅の中は多くの人で賑わっている。雄英高校と言うだけで世間的には有名どころであるが先日の体育祭でその名前にも拍車がかかった為、通りすがる人は雄英高校の生徒だと気がつくと小さく手を振ったり声をかけたりしていた。
「コスチューム持ったな、本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ落としたりするなよ」
そんな通行人を気にもとめずいつも通りの少し気だるげな声色で生徒達に指示を出す相澤。
「はーい!!」
「伸ばすな はい だ芦戸」
「はい…」
相澤に一喝されコスチュームが入ったケースを抱きしめながら気を落とす芦戸。
「くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」
そして相澤の合図で生徒達は各々の職場体験先に行くために電車や新幹線のホームにへと向かう。
『緑谷くん私たちもい、こ…?』
ちなみに言達の職場体験先はこの駅から新幹線に乗って約45分の場所にある。言は他の生徒達と同様に移動を始めようと緑谷に声をかけるが、そんな緑谷は麗日と一緒に少し離れた場所で足早に職場体験先に向かおうとする飯田に声をかけていた。
「飯田くん…本当にどうしようもなくなったら言ってね。友だちだろ」
緑谷がどうして今 彼にそんな言葉をかけるのか、それは体育祭の日に遡る。飯田は体育祭当日の午後、家庭の事情で早退した。それは飯田の実の兄であり、プロヒーロー【インゲニウム】がヴィランに襲われたからだった。そして飯田は兄に強い憧れと尊敬の意を抱いていた。その兄が重体となって病院で治療を受けている中、彼はこの職場体験に励むのだ。そんな飯田の辛い事情を知っているから緑谷は麗日と共に彼を励ますように声をかけたのだ。
「……ああ」
小さく返事をした飯田は少し困ったように眉を下げて、薄い笑みを緑谷と麗日に向けた。まるで自分の表情を隠す仮面のように…そしてこの仮面の下に憎しみが溢れている事を彼らはまだ知らない。