第29章 29
「無理して笑ってんじゃねぇ、気持悪りぃ泣きそうな顔してんじゃねぇか…怖かったならそう言えや…助けられなくて悪かった…だから、無理して笑ってんじゃねえよそんな顔見たくねぇ」
その言葉にボロボロと涙がこぼれ落ちた。掴まれた肩を引き寄せられてグッと力が込められて抱きしめられる。その行動が暖かくて腕を背中に回して縋り付いた。
私が落ち着くまで勝己くんはずっと抱きしめていてくれた。
「ごめんね…勝己くんだって辛いよね」
「辛くねぇ」
「嘘だ…」
「嘘じゃねぇ」
「ねぇ、勝己くん…私の事、A組の人に言わないで欲しいの、きっと、大人の事情で私、あの場所に居なかった事になってて…今回の事も公には何にも無かった事になってるの」
「ニュース見れば分かるわ…なんで、オレに言いに来た?」
「勝己くんは私が拐われたの知ってるから…」
「そんな、理由かよ…」
「え?」
「…凛がオレを選んだのかと思ったわ!」
そう言われて目が泳いだ。確かに、全員のlimeを無視して今ここに来ている事を考えるとそうなのかと納得しそうになる。けれど、塚内さんの言葉があって学校が始まる前にと思って慌てていたのが、本当の所だった。
好きと言う感情が分からないから答えも出せない。
「…なぁ、選べよ?オレならお前を泣かせない」
真剣な視線にドキドキした。
勝己くんはこう言うところが本当にズルイ隙間を見つけて心に入ってこようとする。
いつもそうだ、優しくなさそうでいて本当は誰よりも私の事を気にしていてくれて、真剣で言葉に曇りがなくて
そんな勝己くんは本当にヒーローだと思った。