第1章 前編
――その夜、は夢を見ていた。
「……」
声が聞こえる。
それは男の人の声。
誰の声なのか、わからない。
……でも、ひどく懐かしい。
はその声の主を探す。
と、人影が見えた気がした。
そこで、目が覚めてしまった。
「誰だったんだろう……」
空には今日も気持ちよく白い雲が流れている。
お使いを頼まれたは、家から一番近いスーパーに向かっていた。
近くといっても徒歩で30分以上かかってしまうのだが、はいつも散歩気分だった。
しかし今日は今朝見た夢のことばかり考えてしまっている。
妙に気になる夢だった。
覚えているのは、声と……そして、その人物の髪色。
紫色、だった。
顔はわからなかったけれど、その綺麗な色だけははっきりと覚えている。
……もしかしたら、無くしてしまった記憶と関係あるのだろうか。
瞬間、頭の奥が疼いた気がした。
……思い出すな!!
頭を強く振る。
怖い。
やっぱり、怖い。
頭が痛くなるのも、嫌なことを思い出してしまうのも……。
は小刻みに震える自分の体を守るようにギュっと抱きしめる。
……これ以上、考えるのはやめよう。
はそう決めて、深呼吸しながら大きな青い空を見上げた。と、
「おぉーい! ~!!」
昨日聞いたばかりの声が空から降ってきた。
「悟天! 二日続けて来るなんて珍しいじゃなーい!」
は沈んでいた顔を笑顔に変えて叫んだ。