第1章 出会いと別れ
「僕の家は小さいショークラブを経営していて…今年から全然収入を得られなくなってしまって…」
「…うん」
「陸の入院費も危なくなってきた時に、九条さんっていうショービジネスの人が…」
「うん」
「僕を養子にして、アイドルとして育てたいって言ってきたんだ。…その代わりに全部お金を出してあげるって言われて…」
「…アイドル…」
それであの時、あんなに悲しそうな顔を…
「最初は僕も反発したけど、…でも、このままだと陸が……、っ死んじゃう……」
「…っ、うん」
「…陸が、また体調悪くなってきちゃって、1ヶ月後か2ヶ月後に入院する事になって…だから…っ、」
「…そっか、っ」
顔は見えないけど、天くんが小さく泣いているのがわかる。
私も泣きそうになったけど、これは私が泣くことじゃないから、泣けない。
「……っ天くん、1人で抱え込んでたんだね…、」
「………っ」
「でも、もう1人じゃない、私がいる。」
「うん、…ありがとう。…ありがとう。」
ありがとう、と震えた声で言う天くんに、また泣きそうになる。
そして、少しすると天くんは顔をあげて私の目を見た。
「ふふ、泣いてもいいのに」
「…っ、だって、私が泣いちゃ……っ」
潤んだ瞳で微笑む天くんは、本当に天使なのかと錯覚するくらい綺麗だった。
「…じゃあ、が泣いちゃうこと、もうひとつ言ってもいい?」
「ぜ、絶対泣かない…」
天くんは、今まで以上の優しい顔をした。
そして、私の右手の指と指の間に天くんの左手の指が入ってきて、
天くんの右手が私の後頭部を押さえつけて天くんに寄りかかるようになって、
「、好きだよ。」
ーそう、耳元で囁くように言われ、
私は何も言えなかった。
その代わり、
「…ほら、やっぱり泣いた」
今まで我慢していた涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。