第1章 金曜日の夜 合コンと出会いと健全Day
そのお店の雰囲気にぴったりなお洒落グラスに、美しく削られた丸氷。
一口飲むと、いつもよりも芳醇な香りが鼻腔を通り抜けていく。
「美味しい…」
いつも行く店より値段が張るのも頷ける。
アルコールで先程のイライラが落ち着いてきた頃、同じカウンター席の離れた場所から、ふと視線を感じた。
この視線は…
ナンパだ。
それはそうだ。
女性が一人カウンター席でウイスキーをあおっているなんて、声を掛けてきて欲しいと言っているようなものだ。
だが今日の私は健全Day。
その相手から先に声を掛けられる前に、冷たい視線を向ける。
だが、その顔にどこか見覚えがあった。
その男性が、こちらに向かってくる。
「やっぱりアンタか」
「あ…」
そうだ。
先程の合コンに居た、一際イケメン男子だ。
「まだ飲み足りなくてこの店に入ったんだが、まさか女が一人でウイスキーロックをあおってるとは思わなかった」
「え、えーと…」
(確か名前は…)
必死に思い出そうとするが、そういえば先程も彼の名前を思い出す事が出来なかった。
少しの間唸っていると、男性が口を開く。
「まさか、俺の名前でも思い出そうとしてるのか?」
(正解ですっ…!)
合コンで出会ったのだから、これはナンパとは言わない。
勝手にナンパだと決めつけ、冷たい視線を彼に浴びせしまった。
名前を忘れてしまった事にも申し訳ないと思い、ここは正直に彼に謝罪する事にした。
「すみません、お酒と料理に集中してて、名前を忘れてしまいました…」
我ながら素直な謝罪である。
すると彼は、”別にかまわない”と鼻で笑った。
そう笑った彼に、少しみとれてしまった。
俗にいうイケメンという類と付き合いもあるが、彼はその更に上の上をいっていると思った。
さっきは分からなかったが、よく見れば体もしっかりと鍛えている。
多分、ああいう場に行かなくても、女なんて選り取りみどりなのだろうと思った。
だが彼は、先程の清楚系女子のアプローチを、うまーくかわしていたような気がする。
それと、男性陣の中で一際お酒を飲んでいた。